第30回 菌類観察会報告

日時:2016年6月18日(土)~19日(日)
講演会・スライド発表会場・鑑定会場:東京大学山中寮 内藤セミナーハウス
観察会:山梨県南都留郡山中湖村 山中湖畔
参加人数:46名

 平成28年6月18日~19日に,山梨県の山中湖畔にて,菌類懇話会との共催で第30回菌類観察会を開催しました。当日は梅雨の合間の晴天となり,絶好の菌類観察日和の中,各地から幅広い年齢層の参加者が集まりました。

 初日は東京大学山中寮内藤セミナーハウスにおいて受付とオリエンテーションを行った後,山梨県森林総合研究所の柴田 尚氏による「山梨のきのこと自然環境」,さらに東京大学大学院農学生命科学研究科助教の斎藤暖生氏による「菌類民俗学の可能性~地域を知る・興すアプローチとして~」と題した2題の講演が行われました。柴田先生には山梨県の自然環境や植生の特徴,さらに今回の観察地である富士山周辺のきのこの子実体発生フェノロジー等について,豊富な写真や長年の観察記録とともに解説していただきました。斎藤先生には,地域資源としての野生きのこの可能性について,菌類民俗学という立場から,ご自身のフィールドワークの成果を織り交ぜてご紹介いただきました。

 その後,神奈川県立生命の星・地球博物館の折原貴道氏によるスライド発表「島の地下生菌の謎に迫る」が行われ,日本の島しょ部に分布する地下生菌の系統や生物地理について,最新の研究成果が紹介されました。講演やスライド発表では活発な質疑応答や意見交換がなされ,その後は山中寮内藤セミナーハウス内の食堂で懇親会を開催し,参加者同士でのさまざまな情報交換が夜遅くまで続きました。

 翌日もさわやかな天候となり,富士癒しの森研究所構内および山中湖いこいの森にて観察会を行いました。富士癒しの森研究所構内では,富士山のスコリアが堆積した土壌の上に植栽された,主にカラマツ,アカマツ,ウラジロモミ,シラビソ,エゾマツ,アカエゾマツなどからなる針葉樹林や,イヌシデ,ミズナラ,コナラなどの落葉広葉樹林で観察を行いました。ここでは,キオウギタケ,カラマツシメジ,ヒロハシデチチタケ,スッポンヤドリタケや,地下生菌のヒメノガステル属の一種などが観察できました。また,山中湖いこいの森では,富士山の溶岩流上に形成されたコナラ・ミズナラを主体とした落葉広葉樹林で観察を行いました。ここでは,ミヤマイロガワリ,ヌメリニガイグチ,ザラミノシメジ属の一種やノボリリュウタケ属の一種などの菌類が見られました。さらに,今回の観察会ではアスナロ天狗巣病菌などの植物寄生菌類も19点採集され,多様な菌類を一堂に観察することができる貴重な機会となりました。

 そして,観察会の後,昼過ぎからは山中寮内藤セミナーハウスの中庭にて鑑定会が行われました。今回の観察会では合計124点の菌類を採集することができ,鑑定会場には参加者が採集した標本が所せましと並びました。鑑定会は午後遅くまで続き,参加者は熱心に写真撮影,形態観察や意見交換を行っていました。

 最後になりましたが,今回の観察会開催に当たり,東京大学大学院農学生命科学研究科(富士癒しの森研究所)の斎藤暖生助教ならびに同研究所の皆様には,構内での菌類採集をご許可いただいた上,講演会場や鑑定会場の確保等で大変お世話になりました。また,山中浅間神社有地入会管理組合の皆様には,山中湖いこいの森の入林および林内での菌類採集をご許可いただきました。以上の皆様に厚く御礼申し上げます。




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