第28回 菌学シンポジウム報告 
「見えない(見えにくい)生物の多様性を探る:様々なアプローチで迫る多様性解析」

日時: 2013年12月14日(土) 13:30-17:50
場所: 国立科学博物館 地球館3階「講義室(スタジオ)」
参加人数: 62名

プログラム(敬称略)
13:30 - 13:40 日本菌学会関東支部会長 あいさつ
 小野 義隆 (茨城大学)
13:40 - 13:50 イントロ・趣旨説明  
13:50 - 14:35 植物内生性クロサイワイタケ科菌類の多様性と地理的分布
 岡根 泉 (筑波大学)
14:35 - 15:20 地中の菌根菌の多様性:熱帯や冷温帯の様々な森を見て
 奈良 一秀 (東京大学)
15:20 - 15:50
---コーヒーブレイク---  
15:50 - 16:35 直径3ミクロンの小さな真核藻類の多様性研究  山口 晴代 (国立環境研究所)
16:35 - 17:20 メタゲノム解析における次世代シーケンサの有用性
 宇野 邦彦 (国立科学博物館植物研究部)
17:20 - 17:50 総合討論  
17:50 閉会 あいさつ  
18:00 - 19:30 懇親会  

 2013年12月14日(土)国立科学博物館にて、第28回シンポジウム「見えない(見にくい)生物の多様性を探る:様々なアプローチで迫る多様性解析」を開催しました。久しぶりの国立科学博物館での開催ということでしたが、多くの方々に参加いただき、盛況のうち無事に終了することができました。

 菌類を代表とする微生物は、我々が地球上の生物多様性を把握する上で、最後の砦と言えます。目に見えない、もしくは非常に見えにくい生物を相手にするので、その大変さは容易に想像できます。それは、生活環の一部で肉眼による確認が可能なキノコの仲間であっても例外ではありません。そのため、地球上に少なくとも150万種いると推定されている菌類のうち、記載され名前の付けられている菌類は10万種程度です。1年間に記載されている菌類の新種の数が1200種程度であることを考えると、地球上の全ての菌類を記載し終わるまでには、あと1000年以上かかってしまうことになります。

 このような異常とも言えるほどの多様性を示す菌類およびその他の微生物の全容を把握するためには、これまでの伝統的な分類学に加えて、新たなアプローチによるブレークスルーが必要になってくることでしょう。今回演者のみなさんには、様々なアプローチで微生物多様性の解明にせまる面白さ・難しさについて紹介していただきました。

 岡根泉氏(筑波大学)には「植物内生性クロサイワイタケ科菌類の多様性と地理的分布」という演題で、植物内生菌として世界的に広く分布する分類群について、多様性、宿主特異性、分類などについて講演いただきました。タイ、西表、利尻など、熱帯から寒帯にかけての比較研究は、今後の菌類多様性研究の目指すべき方向だと言えるでしょう。

 奈良一秀氏(東京大学)には「地中の菌根菌の多様性:熱帯や冷温帯の様々な森を見て」という演題で、人間の目に触れることの無い、地下部の菌類生態について、外生菌根菌を対象として豊富な分子データを基に紹介していただきました。菌根菌の群集組成が、地域ごとに異なること、他の生物の法則とは異なり、熱帯よりも温帯のほうが菌根菌の多様性が高いこと、などこれまでの常識を覆す事例も多く、これからの研究が大いに楽しみな分野です。

 山口晴代氏(国立環境研究所)には「直径3ミクロンの小さな真核藻類の多様性研究」という演題で、菌類と同様目に見えない微小藻類、その中でも真核ピコプランクトンと呼ばれる一群についての研究を紹介していただきました。海水中での細胞密度が低いサンプルから効率よく検出するために、船上での海水濾過・細胞濃縮を経て、実験室でのフローサイトメトリーを用いた解析の流れは、微小生物の多様性を把握するのがいかに困難かを示していると言えるでしょう。

 宇野邦彦氏(国立科学博物館植物研究部)は「メタゲノム解析における次世代シーケンサの有用性」という演題で、近年盛んに用いられている次世代シーケンサによる多様性解析の事例を紹介されました。次世代シーケンサの利用により、間違いなく大量のDNAデータを得ることができるわけですが、本当にどの菌が何種いるのかがわかっていない状態で、やみくもに次世代シーケンサのデータを信頼することの危険性、メタゲノム解析の有用性と限界、などを紹介していただきました。

 シンポジウムでは各講演者に対して多くの質問が投げかけられ、活発な議論がおこなわれました。引き続き講師も交えて行われた懇親会でも、さまざまな質問が飛び交い、交流も深まりました。参加された全員にとって意義深いシンポジウムなったのではないかと思います。講師のみなさま、および参加者の皆様に感謝申し上げます。

シンポジウム担当幹事 保坂健太郎