第32回 ワークショップ報告 グロムス亜門(アーバスキュラー菌根菌)の多様性(グロムス亜門の分類・生態と採集・分離・観察)

日時: 2019年6月21日(木)~6月23日(土)
場所: 筑波大学山岳科学センター菅平高原実験実験所(長野県)
講師: 阿部淳一ピーター 先生 (筑波大学生命環境系生物圏資源科学専攻)

 本年度の第32回菌学ワークショップは筑波大学の阿部淳一ピーター氏を講師として、6月21日から23日に筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所にて開催されました。

 初日の夕方、集合してセンターの利用説明などオリエンテーションを受けた後、はじめに阿部先生に、菌根、アーバスキュラー菌根についての大変わかりやすい概説をして頂きました。夕食後に早速、光学顕微鏡でアーバスキュラー菌根の実物の観察をしました。試料の調整には若干、時間が必要でコツもいることから、予め、阿部先生が処理をして見やすくして下さった材料をご用意下さりました。めいめいそこからプレパラートを作成して観察をすると、教科書で見るような樹状体、嚢状体、またアルム型、パリス型、ちょっと変わったハナワラビの菌根など、やはり実物を目にすることはとても大切だと痛感しました。毛状根との二員培養プレート上では、接合菌の菌糸体や厚壁胞子にそっくりの姿が見られました。

 翌日は、グロムス亜門に関する分類のレクチャーをして頂いた後、観察の流れについて説明を受け、皆で、フィールドに出てススキ草原や森林の土壌をサンプリングして持ち帰り、ふるいと遠心機を用いて、土壌中から、グロムスの胞子を単離する実習を行いました。菅平高原の黒ボク土はきめが細かく粘りもあってやや胞子の単離が難しいというお話しでしたが、参加者の皆さん、阿部先生の親切なご指導のもと、手際よく単離を進められ、様々な胞子を単離、観察され、感激されていました。実体顕微鏡の下に集積されたグロムスの色とりどりの胞子は光沢があって何とも美しいものでした。うまくいかない時のためにと、阿部先生がわざわざ海岸草原の砂も大量に採集して来てくださりました。やはり海岸の砂礫だとふるいによる洗浄がとても楽だということも、皆さん身をもって実感されました。

 最終日23日には、いつまでも見飽きない、きれいな胞子サンプルの観察を続行しつつ、阿部先生ご自身の学位論文のテーマである海岸植物のアーバスキュラー菌根に関するご研究も紹介して頂き、最後に、全員に紀要の別刷りプレゼントが配られました。

 今回のワークショップでは、野外からの土壌採集、ふるいや遠心機を用いた土壌中からの胞子の単離という独特の操作、植物の根や胞子のプレパラート観察、毛状根プレートの観察と、観察内容や実験操作がとてもバリエーションに富んでおり、飽きがこない!という点が実にユニークだと感じました。下手をすると、菌類の観察実習は、ひたすら顕微鏡に向かい、ひらすらスケッチをするという単調な苦行のようなことになりかねません(幸い、関東支部のWSでは受講生全員が好奇心旺盛で、講師の先生方の菌類への愛情?もあって決して退屈なものになることはそうそうありませんが!)。しかし、このように様々な手法を組み合わせ、植物と共生をして自然界に位置を占めているグロムスという菌類をいろいろな方向から浮き彫りにして観察・理解するというのはとても楽しいプログラムだと思いました。グロムスはいろいろな切り口、楽しみ方のある魅力的な菌群ですね。初参加の方々もとても楽しんで下さったと思います。もちろん、これも全ては、大変入念な準備をしてくださり、わかりやすく親しみやすい丁寧なご指導を下さった阿部先生のお人柄のたまものです。心からお礼申し上げます。

 最後に、ワークショップの成果として、すっかり恒例となりました、参加者全員、身体で観察材料を表現しながら記念撮影をして、盛況の裡に解散となりました。講師の阿部先生、会長に代わってご参加ご挨拶下さった稲葉幹事長、ご参加いただいた皆さん、準備を手伝って下さった学生の皆さん、大変お疲れ様でした。


担当幹事 出川 洋介・柴田 めいこ

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