メニュー メニュー
一般社団法人 日本菌学会 - The Mycological Society of Japan

会長挨拶

日本菌学会会長 細矢 剛
日本菌学会会長
細矢 剛

このたび、会長に選出されました国立科学博物館の細矢です。伝統ある日本菌学会の発展に微力ながら精一杯務めさせていただきます。着任にあたり、一言ご挨拶させていただきます。

日本経済は低迷が続き、とりわけ基礎科学の分野では科研費や研究予算減などの悪影響が出ています。さらにこれに追い打ちをかけるように日本はコロナ禍にみまわれ、社会的な価値観の変化や、新しい生活への対応を余儀なくされました。しかし、この影響もあって、デジタル化、ICT化、リモート化が大きく推進されました。

サイエンスの分野では、いわゆるオープンサイエンスや市民科学などの新しいトレンドが目立つようになってきています。これは持てるデータを最大化し、次の世代で自由に使ってもらい、さらに成果を拡張しようという知的拡大再生産を後押しする方向に他なりません。

世界に目を向けると、SDGsでは17項目中2項目(No14, 15)に生物多様性が言及され、生物多様性は相変わらず注目されています。また愛知目標の多くにおける「未達成」の評価を受け、新しいフェーズで生物多様性との取り組みが必要となっています。

学会の周辺では、法人化などに始まる制度改革やコンプライアンスを重視した活動が重視されています。日本菌学会は法人化によって社会における地位はよりいっそう強固なものとなりました。当学会は一般社団法人ですので、社会に対する利益供与(公益)の有無は問われませんが、法人として、学会の構成員の利益(共益)追求に加え、サイエンスに対する貢献を通じて社会に貢献することは必要と考えます。また、当学会のように生物資源を扱う学会では、ABSやなどの法制度にも適応していく必要があります。

菌をめぐるサイエンスでは、遺伝子を活用して菌類の多様性に関する認識がこの10年で大きく変化しました。菌類はいわば「生物世界のダークマター」(https://news.globallandscapesforum.org/43855/into-the-great-unknown-of-terrestrial-dark-matter-fungi/https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1754504815000823など)として、様々な環境に潜んでいます。遺伝子配列は生物の共通言語とも言えるもので、メタゲノムなどの方法によるアプローチは、「見えないけどそこにいる」菌類の自然界の中でのありようを共通言語で理解するのに大きく貢献し、さらなる発展が期待されています。また、ゲノムサイエンスの進歩によって遺伝子の機能解析や全ゲノムに基づく系統解析など、新しい手法が導入されています。菌類のゲノムサイエンスは、今後も菌類の生態や機能、進化の理解に適用され、新しい知見を得るのに使われるでしょう。

遺伝子情報は、全世界的に共有が進んでおり、すでに多くのデータが公的データベースに蓄積されています。一方、新分類群の記載に伴って学名を届け出て登録するシステムは菌類では早期に確立されましたが、これもデータの蓄積に重要です。「1F=1N」で言い表される、学名の1名化についても作業が進んでおり、データベースなどの分野では、新しい学名に合わせることが必要となっています。生物のオカレンス(在)データを蓄積した地球規模生物多様性情報機構GBIF(https://www.gbif.org/ja/)では菌類については2千万件を超えるデータが蓄積され、その学名の整理には、Index fungorumを始めとする学名のデータベース(Mycobank、Catalogue of Life; https://www.catalogueoflife.org/)との連携が必須となっています。

また、蓄積されたデータは新しいデータとともに、様々な新しい手法で解析され、新知見が得られています。新たにデータ(素データ)をとって、そのデータだけに基づく成果(グラフや論文)を得て、その元となるデータは放っておく時代から、すでにあるデータを再利用して活用する時代、そして、自分がとったデータは次の世代に活用してもらうために残しておき、再利用されることを期待する時代が到来しています。

日本菌学会は、決して規模は大きくは無いものと思いますが、国内唯一の菌類の専門学会として幅広い菌類のサイエンスを扱う学会として発展してきました。今後も、このような立場から、日本の菌類の生物多様性を幅広く研究し、結果を社会に発信し、役立てもらうように活発に活動する先駆的な学会であるべきです。幅広い分野を扱う中で、やはり分類学が中心となっている感は否めず 、扱うサイエンスの幅をもっと広げることが必要と考えられます。このためには、関連の学会と連携を深め、新しい視野や手法を取り入れ、新しい視野を導入したり、他学会から新規の入会を促したりして、学会の中での議論を促進し、新しい研究に結びつけていく努力が必要です。とりわけ、ゲノムサイエンスや、次世代シークエンスを使った解析、データサイエンス的な研究など、新しい分野については、他のサイエンスの分野に遅れないように、新しい情報と結びついた活動を活発にしていかなくてはなりません。

日本菌学会は、2016年度、幸いなことにはじめて5年一貫の研究成果公開促進費(国際情報発信強化)での科研費獲得に成功しました。この分野は、学会誌の出版を補助するだけのものではなく、「国際化」をサポートするものです。そして、幸いなことに、この度、引き続き次の5年の科研費に採択されました。過去5年間の間学会活動の推進と、新規の応募にご尽力いただいた関係者の皆様にこの場をかりて深く御礼申し上げます。これにより、当学会は、国際化をさらに進める必要があります。

学会誌Mycoscienceは、2020年末でElsevier社との出版契約が終了し、2021年1月から勝美印刷より出版されるオープンアクセスジャーナルとして生まれ変わりました。これは先にのべたオープンサイエンスの推進に合致したもので、被引用回数の伸びが期待されます。しかし、その一方で、国際的な商業出版社からの出版ではなくなることに対する不安や、学会誌維持のための財政モデルの再構築が課題として残されています。学会ビジネスに振り回されるのは問題ですが、大きな流れとして無視するわけにもいきません。うまく適応していくことが必要です。

日本菌学会のミッションは、「菌学の発展及び普及の推進に関する事業を行い,もって社会の発展に寄与すること(日本菌学会定款より)」です。これは「菌類や菌類の研究の面白さ・重要性・必要性をアカデミア・社会に訴えること」にほかなりません。学会での事業は、①大会・観察会等の集会の開催、②会報の発行、③データベースの作成、④研究の奨励、⑤業績の表彰、⑥関係団体との連携が主なものですが、以上のような状況に鑑み、これらを実現するため、特に次の3点を重視したく思います。

1)オンラインにシフトした運営と会員メリットの確保

対面集会が困難となったポストコロナあるいはウィズコロナの時代に対応しながら、このミッションを推進するため、内外の学会活動の優れた例を取り入れ、体制を維持・更新する必要があります。出張が不要なリモートの利点を活かすとともに、対面での議論ができない欠点を補うため、理事会メンバーによる短い会合を増やし、情報共有・自由闊達な議論を行い、スケジュール感をもった対応をしたく思います。また、複数の理事や関係者が課題に取り組むワーキンググループ的な取り組みを増やしていこうと思います。変化する環境に素早く対応できるようなコミュニケーションのとり方の向上、ICTを活用した意思決定のスピードアップ、ホームページやSNSからの情報発信なども必要です。

2)国際誌としてのMycoscienceの維持と発展

獲得された科研費を有効に活用し、学会の顔であるMycoscienceに、菌類を材料として幅広いサイエンスを行う当学会にふさわしい多様性と、新規性をもった論文が集まることが強く望まれます。まずは、新しい体制でのMycoscienceの運営を軌道に乗せましょう。またデータの公開にあたっては、FAIRの原則(https://www.go-fair.org/fair-principles/https://www.nature.com/articles/sdata201618。Findable, Accessible, Interoperable, Reusable。データが見つけられ、アクセス可能で、相互利用可能で、再利用可能であること。例えば、表のデータであれば、画像<PDF<CSV形式、のように相互利用と再利用可能性が高くなるし、適切なライセンスを伴うことによって、再利用可能性が高くなる。現在のMycoscienceは(CC) BY-NC-NDのライセンスを伴っているため、再利用可能性は高く、この方向に進んでいる)に従い、再利用価値があるデータには積極的な公開を求めるべきです。このことが、今後のMycoscienceのインパクトを上げることにもつながると考えます。また論文の種類も多様化しています。意見論文やデータペーパーなど、従来なかったようなカテゴリーを取り入れる可能性についても検討してはどうかと思います。

3)日本・アジアの中での日本菌学会のプレゼンスの向上

科研費の活用は、雑誌の出版に限らず、「国際化推進」を目的としています。そのため、まずは、リモートの利点を活かして国内での活動にも国際性を取り入れるとともに、アジアの学会に対して、引き続きプレゼンスを出していくことを検討します。また、Mycoscienceの国際認知が向上されるような活動も考えていきたく思います。

現在の日本菌学会があるのは、これまでの運営を支えてきた執行部と、会員の努力に他なりません。この上に立ち、新しい時代に向けて、会員の皆様からは、日本菌学会のために引き続きお力をお借りできますよう、お願い申し上げます。

2021年5月