平成23年度 年次大会報告

日時: 2011年5月14日(土) 13:00-17:00
場所: 東京農業大学 世田谷キャンパス グリーンアカデミーホール

 2011年5月14日、東京農業大学世田谷キャンパス グリーンアカデミーホールにて平成23年度年次大会が開催されました。81名の方にご参加いただきました。

 話題提供講演では岡田氏(理研バイオリソースセンター:JCM)より、多型的な生活環をもつ種に適用される菌類特有の二重命名法と統一命名法に関する解説ならびに最近の議論の状況について紹介して頂きました。分子系統学の発展に伴い有性生殖が分からない菌類でも系統学的類縁関係が比較的容易に推定できる現状を背景に、菌類においても統一命名法すなわち“1つの菌種に1つの学名”を採用すべきだという議論がここ数年活発におこなわれています。学名のインフレーションを避けるためにも1菌種1学名にすべきという一派と、それに異議を唱える一派との議論の状況について詳しい資料もご準備頂き解説して頂きました。

 今大会では7題の一般講演がありました。保坂氏(国立科学博物館)からは菌類バーコーディング領域として核rDNA・ITS領域が有力候補として正式提案されることが紹介されました。出川氏(筑波大)からは針葉樹の生木樹皮上に見出したヘリコイド分生子を形成する地衣化した菌類がデマチウム科Milospium属所属の日本新産種であることが報告されました。海渕氏ら(北里大)からは、Simplicillium属菌の中にarbekacin(ABK)耐性methicillin耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の耐性克服物質の生産菌を見出し、本菌が既知のSimplicillium属3種とは形態および分子系統学的比較において異なる種であることが報告されました。佐藤氏(森林総研)からは、水生節足動物の消化管に付着生活するTrichomycetes類の調査をおこなった結果、日本新産属となるBojamycesLancisporomycesおよびAstreptonemaが見出されたことが報告されました。安藤氏ら(東京農大)は、従来Nitschkia属として考えられてきたスギこぶ病菌は、形態および分子情報に基づく再検討の結果Botryosphaeria属あるいはGuignardia属所属とすべき種であること、所属決定にはさらに形態と分子情報による精査が必要であることを報告されました。広瀬氏ら(日大薬)は、漂白化落葉に発生するCoccomyces属が宿主分類群と地理的異動に連関した多系統群で構成されること、多くの宿主分類群で複数系統の菌が定着していること、特定の植物の科や属においては菌の宿主特異性が示唆されることや明確な地理的分化が認められることを報告されました。柿嶌氏ら(筑波大)からは、先の震災による福島原発の事故を受け、きのこ類および地衣類の放射能濃度を測定したところ供試した生物種により濃度差があり、種による放射性物質の蓄積特性や生育環境による違いについて継続的なモニタリング調査をおこなう必要性が報告されました。

 恒例となっているオークションもおこなわれ、若手研究者のための国際会議渡航費用として活用される資金も集まりました。

 大会案内当初は参加申込数が少なく開催が心配されましたが、81名のご参加を賜り今年の年次大会も盛会でした。ご参加いただいた皆様、演者および座長をお引き受けいただきました皆様、会場準備にご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。

年次大会担当幹事 岡根 泉

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プログラム(敬称略)

年次総会

話題提供講演

-菌類分類学を取り巻く最近の動向-

 

座長  青木孝之 (農業生物資源研究所 遺伝資源センター)
  「多型的生活環をもつ高等菌類における二重命名法と統一命名法の概略と最近の動向」  岡田 元 (理化学研究所 バイオリソースセンター)
一般講演 座長  広瀬 大 (日本大学薬学部)
  菌類バーコーディングのワークショップ(オランダ)からわかる最近の動向  保坂健太郎 (国立科学博物館・植物研究部)
  ヘリコイド分生子を形成する地衣化したデマチウム科不完全菌類の一種について  出川洋介 (筑波大学菅平高原実験センター)
  青ヶ島土壌より分離されたSimplicillium 属菌株について  野中健一1)・○海渕 覚2)・高田恵子3)・岩月正人1)・塩見和朗1)2)・高橋洋子1)2)・大村 智1)・増間 碌郎 1)2)
(1)北里大生命研;2)北里大学感染制御;3)東京理大薬)
  座長  出川洋介 (筑波大学菅平高原実験センター)
  茨城県内で採集された数種のTrichomycetes類について  佐藤大樹 (森林総合研究所森林昆虫研究領域)
  スギこぶ病菌の所属再検討  ○安藤裕萌1)・本橋慶一2)・矢口行雄2)
1) 東京農業大学大学院農学研究科;2)東京農業大学地域環境科学部)
  漂白化した落葉上に子実体形成するCoccomyces属の系統的多様性と宿主特異性  ○広瀬 大1)・大園享司2)1) 日本大学薬学部;2)京都大学生態学研究センター)
  筑波大学構内で採集したきのこ類および地衣類の放射性濃度  柿嶌 眞1)・阿部淳一1)・糟谷大河1)・松本宏1)2)・大村嘉人3)・○保坂健太郎3)1) 筑波大学大学院生命環境科学研究科;2)筑波大学アイソトープ総合センター;3) 国立科学博物館植物研究部)

懇親会