会長挨拶

第19期会長

成澤 才彦 (茨城大学 農学部)

 
日本菌学会関東支部の第19期会長を務めさせていただきます。よろしくお願いします。幹事長をはじめ、優秀な幹事の皆様が役員としておりますので、私も安心して会員の皆さまに充実した支部の活動や企画を行うことをお約束できます。
さて、関東支部の会員は、”菌類”を扱う研究者やアマチュアの皆さまですね。”菌類”が好きで、興味があり、楽しくて、または仕事での必要性があり・・・など会員になるには様々な理由があると思います。でも、おそらく多くに皆さまは菌類は菌類であると疑問にも思わないのではないでしょうか?私もつい最近までは、何の疑問も無く”菌類”と表現して、大学でも講義をしていました。しかし、最近になって、菌類を菌類と表現して良いのか?特に、細菌とのつながりに関して興味深い研究例が報告されてきて、菌類とは?と再考するようになってきました。今では、菌類の分離菌株コロニー周辺に出現する細菌のコロニーもコンタミ扱いしなくなりました。
皆さまは、菌類に内生する細菌がいることはご存じでしょうか?私たちの研究室では、普遍的な土壌菌として知られているMortierella属菌を対象とし研究を進めています。10年ほど前から、Mortierella属菌の多くに細菌が内生することがわかってきました。もちろん、全ての菌株に細菌が内生している訳ではなく、内生していない(細菌が見つからない)菌株も存在します。むしろ、内生していない菌株の方が割合は高いと思います。それでも、なぜ内生しているのか?その理由(働き)を知りたくなるのも研究者ですね。通常、腐生菌であるMortierella属菌を植物に接種すると、植物の生育にはマイナスの効果を示します。ところが、中には、プラスの効果を示す菌株も存在することは昔から知られていましたが、その理由は明らかになっていませんでした。私たちもトマトの生育を促進するMortierella humilisを見つけていました。そこで、ハッと思い、内生細菌の存在を確認したところ、予想通り、Burkholderiaceae-related endobacteria(BRE)がいることがわかりました。次には、何を考えるか?そうですね。この内生する細菌を除去してみたら・・・ですね。そこで、抗生物質処理によりこのBRE除去株を作成し、トマトに接種した結果、トマトの生育が不良となり、葉や根に褐変などの症状を示しました。なんと、植物への共生的な振る舞いを細菌が制御していたのです。今は、この発見により「内生細菌を制御することで腐生菌を植物共生菌に変え、作物生産への利用できる?!」ことを検討しています。
生物間における共生関係は今までに多くの生物種で見出され、互いの生存・繁殖に不可欠ですね。菌類と細菌も相互に様々な影響を及ぼし合っていると考えられ、菌類-細菌を複合系として捉え、その生理、生態を理解することは極めて重要だと思います。もしかすると、我々が菌類として認識していた生物は・・・今までの菌学の概念を覆し、新たな生物共生系の存在につながるのではとワクワクしています。
関東支部でも、もちろん今までの伝統を守り、活動や企画を進めてまいります。さらには、菌類と細菌とのつながりにみられるように新しい展開(つながり)も必要だとも思います。私たち役員も企画等を考えておりますが、是非皆さまからのご要望やご意見をいただけると幸いです。菌類と細菌とのつながりを学び、関東支部も次のステージに進みましょう!

第18期会長

根田 仁 (農業・食品産業技術総合研究機構)

 拝啓、初夏の日差しに若葉がまぶしく照り映える季節になりました。常々、日本菌学会関東支部の活動にご協力をたまわり、お礼申し上げます。昨年度は新型コロナウイルス感染症蔓延の影響により、私達の生活・活動が大きく制限されてまいりました。会員の皆様にも多大なご苦労があったものとお察しします。この日本菌学会関東支部も、昨年度は集会をともなう活動を中止させていただくことになりました。やむを得なかったこととはいえ、会員の皆様からのお叱りもあるかと思います。お詫びいたします。
 このような状況のもと、4月24日にWeb会議で年次大会を開催できましたことは、皆様のおかげと感謝しております。また、会長以下幹事は引き続き同じメンバーで務めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします。
 本年度は、4月の年次大会をはじめ、観察会、シンポジウムと例年に近い内容になるように、かつ、安全に行えるよう、活動計画を立てております。感染症対策のため手探りで実施することになり、ご満足が得られないこともあるかと思いますが、今後もご指導、ご参加をいただければと思います。
 会員皆様のご健康とますますのご活躍を心よりお祈りいたします。

第17期会長

根田 仁 (農業・食品産業技術総合研究機構)

 このたび、日本菌学会関東支部会長をおおせつかりました。このアクティブに活動している伝統ある菌学研究者の集まりに役員の代表として参加させていただくことに喜びと緊張をおぼえます。
 日本菌学会関東支部はワークショップ、サマースクール、菌類観察会、シンポジウムなど数多くの活動を通じて、関東のみならず、日本の菌学研究のいしずえとなってまいりました。さらに、「菌学ラテン語と命名法」、「日本産菌類集覧」のような菌学研究者のみならず、幅広い生物関係者の役に立つ基本図書の刊行を行い、日本の科学に貢献してまいりました。 それらの実績を継承し、さらに発展させるべく、役員は意気込みも新たに、今後、努力していきたいと思います。
 日本菌学会関東支部は、フットワークの軽いことが自慢です。今後も会員皆様のご協力と活動へのご参加をお願いいたします。

第16期会長

根田 仁 (農業・食品産業技術総合研究機構)

 このたび、日本菌学会関東支部会長をおおせつかりました。このアクティブに活動している伝統ある菌学研究者の集まりに役員の代表として参加させていただくことに喜びと緊張をおぼえます。
 日本菌学会関東支部はワークショップ、サマースクール、菌類観察会、シンポジウムなど数多くの活動を通じて、関東のみならず、日本の菌学研究のいしずえとなってまいりました。さらに、「菌学ラテン語と命名法」、「日本産菌類集覧」のような菌学研究者のみならず、幅広い生物関係者の役に立つ基本図書の刊行を行い、日本の科学に貢献してまいりました。 それらの実績を継承し、さらに発展させるべく、役員は意気込みも新たに、今後、努力していきたいと思います。
 日本菌学会関東支部は、フットワークの軽いことが自慢です。今後も会員皆様のご協力と活動へのご参加をお願いいたします。

第15期会長

小野 義隆 (茨城大学教育学部)

 第14期から引き続き第15期の会長を務めさせていただきます。菌類という生き物の美しさ、奇妙さあるいは珍妙さに心惹かれ、ルーペ一つを持って野外に出れば時間を忘れて楽しむことができるという、そういう気持ちを共有している人々が集い、互いに教え合い学び合う、この親睦と学術いう機能が統合された日本菌学会関東支部で一緒に活動できることをたいへん嬉しく思っています。まだ日本菌学会関東支部に入会していない人々には、ぜひ入会をお勧めしたいと思います。春の総会では、先端研究についての講演と様々な研究発表があります。初夏には、それぞれの菌類グループの専門家が高度な内容を実習を伴ってわかりやすく解説してくれるワークショップがあります。サマースクールでは、児童・生徒の皆さんが菌類の不思議を体験することができます。秋の菌類観察会では発見と収穫の充実感を満喫できます。そして冬のシンポジウムでは菌学研究の醍醐味が味わえる内容の工夫が凝らされています。

 さて、私達のこのような様々な活動に対象となる菌類という生き物は、いろいろに違った直近の祖先から進化してきた、多様な系統の真核生物であることがますますはっきりしてきました。真菌が含まれるオピストコンタだけではなく、アメボゾア、エクスカバータ、ストラメノパイル、リザリアと呼ばれている大きな系統群にこれまでまとまりのある菌類として考えられていた生き物が分散しています。体が小さくて、基本となる体制を菌糸という糸状の細胞で作り上げ、酵素を分泌して有機物を分解し吸収する、そして胞子で生殖するという生き方は、どうやら厳しい自然の中でもとてつもなく心地よく生活できる様式のようです。
このような菌類の生活そのものや系統を明らかにする研究は、しばしば新しい系統群の発見を伴い胸をわくわくさせます。地球上の多様な生命の実態を知る夢を満たしてくれそうです。また、菌類という生き方がなぜこのような多様な系統の異なる生き物で実現できているのかを追求することは、真菌だけではなくて広く生物に対する自然の選択の要因と生物の環境への適応の過程を明らかにすることにつながるでしょう。

 このような研究にはたいへん高度な研究上の技能とイマジネーションを含む思考が要求されます。しかし、同時に研究対象となる新しい菌類を自然の中から見出すことが必要になります。ここに、日本菌学会関東支部の会員となっている人々が本領を発揮できる場があるのだ、と私は考えています。職業として菌学研究をしているかどうかにかかわらず、自然の中で、ルーペを持って、時間を忘れてしまうような熱中した観察の結果見つけ出した菌類が、自分自身あるいは他の人々の研究材料になり、新たな菌類研究を推し進めることになるのだということです。菌類観察会に象徴的なように、年齢の大小に関わらずあるいは職業的研究者かどうかにかかわらず、同じ視線で菌類に向かい、同じ気持ちになって、同じ言葉でコミュニケーションできることが菌学研究の原動力になっているのです。これからも、みなさんと一緒に菌類を楽しみ学び、そのような人々を増やしてゆければと思っています。

第14期会長

小野 義隆 (茨城大学教育学部)

 植物でもなく動物でもない不可思議な菌類の正体を明かすことは、1674年のアントニー・ファン・レーウェンフックによる微生物の発見あるいは1729年のピエール・アントニオ・ミケリによるカビやきのこの実験的研究以来、人々の心躍らす知的なチャレンジでした。微小だけれども精緻なつくりの、これらの美しい生き物にはどんな種類がいるのか、それらはどのように生じてきたのか、そして、これらの微小な生き物のとてつもない大きなはたらきがどのようにして可能になるのか、どれもこれも科学的興味を引きつけるものでした。

 日本菌学会関東支部は、菌類の種類、形や生き方から、それらが創り出すいろいろな物の性質と活用に興味や関心を持ち、実際に調べ、その結果を共有したいと思っている人々の自主的・主体的なはたらきで作り出され支えられている学術組織です。同時に、菌類を愛好する人々の親睦組織でもあります。大学や研究機関で研究している人だけではなく、菌類を職業の対象にしていない会員が多くいます。ですから、日本菌学会関東支部のいろいろな活動は、専門的な高度な内容は保ちながらも、多くの人々に理解してもらえるような工夫を凝らして行っています。春の「総会・研究発表会」、夏から秋に開催される「ワークショップ」、秋の「菌類観察会」、冬の「シンポジウム」などの行事です。特筆すべき活動として「子供のためのサマースクール — 微生物は働きもの」があります。「エコロジー」や「サステナビリティー」が現代社会のキーワードになっているにもかかわらず、これら二つの概念に重要な生き物=菌類・微生物が学校教育体系から欠落してしまっているのです。「子供のためのサマースクール」が菌類・微生物リテラシーをもった社会人の育成に繋がることを確信しています。

 発足以来25年、畑中信一・初代会長から8人の歴代会長のもとで築き上げられた高い菌学研究と広範な普及活動の伝統をさらに発展させられるように努力いたしたいと考えております。

第13期会長

小川 吉夫 (日本大学薬学部)

 第12期に引き続き第13期の会長を務めさせて頂くことになりました。第12期は、優秀な幹事諸氏に支えられて何とか会員の皆様に満足して頂ける企画を提供できたのではないかと考えております。第13期も幹事諸氏と手を携えて会の発展に尽くす所存でございますのでよろしくお願い申し上げます。

 第12期の事業の中、特に述べなくてはならないのは、待望の「日本産菌類集覧」(勝本謙先生著、勝本兼先生・安藤勝彦先生編)を出版に漕ぎ着けたことであろうと思います。出版目前にして勝本先生が病に倒れられるなどいくつかの山がございましたが、何とかお手許にお届けすることが出来たのは、安藤さんをはじめ皆様のご協力の賜物と感謝しております。第13期では、日本の菌学の宝とも言うべきこの名著の更なる普及に取り組んで参りたいと思います。

 関東支部のひとつの特徴は、幅広い活動基盤をもつ幹事による魅力ある企画の運営であることは会員の皆様の周知のとおりです。今期も、年次大会、菌学ワークショップ、子供のためのサマースクール、菌類観察会、、年末シンポジウム、ウェブサイトの運営を通して、新鮮な情報を会員各位に提供してまいります。一方、各々の企画が盛況の内に終わるため、うれしい悲鳴と申しますか、財政が豊かになり続けております。申すまでもなく関東支部は営利団体ではありませんので、貯金が溜まり続けるというのは、ある意味で好ましくないことです。この資金を会員の皆様に還元するために、各企画の参加費の減額等の方策を検討して参りたいと考えております。

 第二の特徴は、大学・国公立の研究機関の研究者、民間企業の研究者そしてアマチュアの三位一体となった支部会員の構成です。会員の皆さんが各々特異の分野で活躍することの出来る場を提供して行きたいと考えています。

 1987年に発足した日本菌学会関東支部は2012年に創立25周年を迎えます。関東支部の歴史を旨に関東支部の益々の発展のために尽力して参ります。会員各位の積極的なご参加をお待ちしております。

第12期会長

小川 吉夫 (日本大学薬学部)

この度、第12期の会長として平成21年度、および22年度の2年間を務めさせて頂くことになりました。畑中信一初代会長に始まる歴代会長の宮治誠、中村重正、勝屋敬三、杉山純太、徳増征二、安藤勝彦、奥田徹の先生方のことを思うと、菌学の研究を40歳近くなってから始めた私にとりましては、いずれも大先生に当たる方々ばかりで、まさしく身の引き締まる思いがいたします。ただ、優秀な幹事諸氏に恵まれておりますので、幹事諸氏と手を携えて会の発展に尽くす所存でございます。

 日本菌学会関東支部が1987年に発足してからこの4月で22年が経過したことになります。この間、菌学を取り巻く環境の変化には目をみはるものがあります。バブル経済の崩壊、国立大学や国立研究機関の独立法人化、インターネットの発達は、少なからず学会活動に影響を及ぼしています。

 また、遺伝子組み換え技術の普及は、菌類の系統・進化・分類・生態・生理といった分野に飛躍的な発展をもたらしただけでなく、動物や植物といった他の生物群を対象とする生物学の諸分野と共通の思考法で菌学の研究を行う時代が到来したこと意味し、関連諸分野との交流の重要となって来るでしょう。

 関東支部では、目まぐるしい時代の変化に対して、支部の特長を生かしてに対応して行きたいと考えています。特長の第一は、幅広い活動基盤をもつ幹事による小回りの効く企画の運営です。この事は、学会間の横の繋がりを可能にし、新鮮な情報を会員各位に提供してくれるでしょう。また、現在は、年次大会、子供のためのサマースクール、菌類観察会、菌学ワークショップ、年末シンポジウム、ウェブサイトの運営は定例の企画で、それぞれ形態はそれぞれ異なりますが、新たなトピックスへの即断即決の企画の立案を可能にしています。

 第二の特徴は、大学・国公立の研究機関の研究者、民間企業の研究者そしてアマチュアの三位一体となった支部会員の構成です。会員の皆さんが各々特異の分野で活躍することの出来る場を提供して行きたいと考えています。

 そして、第三は、質の高い企画の提供です。第11回のGams先生よるAcremoniumについて、また、第21回のSamuels先生によるHypocrealesについてのワークショップなど海外から著名な講師を招いての企画なども関東支部ならではのものと思います。また、出版企画として、勝本謙先生による「菌学ラテン語と命名法」、そのCD-ROM化などどれだけ会員の論文作製に貢献したか計り知れないものがあります。そして、今年度は、勝本謙 編・著 安藤勝彦 編「日本産菌類集覧」を出版する運びとなりました。きっと、会員各位の座右の書としてお役に立つこと思います。

 今年度の活動予定は、ホームページに掲載してありますが、この他に、取組まなければならない事として、国際学会へ参加する若手研究者の支援があります。本年には台湾でのAsian Mycological Congress, 来年英国エジンバラでのInternational Mycological Congressへの参加補助を行いたいと考えております。

 最後に、関東支部は幹事の斬新なアイデアと献身的なボランティア精神によって支えられています。会員皆様のご支援を賜ると同時に、様々な企画に積極的に参加されて支部の一層の発展のためご協力をお願い申し上げます。

第11期会長

奥田 徹 (玉川大学学術研究所)

 関東支部の前身は日本菌学会発足当時の東京談話会にさかのぼるという。休眠状態であった談話会を日本菌学会関東談話会として再発足させたのが1978年、その談話会の会員の意向を確認して日本菌学会関東支部として出発したのが1987年である。したがって、2007年は関東支部創立20周年、本年2008年はその前身の関東談話会発足30周年という節目に当たる。この間に畑中信一、宮治誠、中村重正、勝屋敬三、杉山純多、徳増征二、安藤勝彦ら諸先輩方の歴代会長を中心として幹事会が企画運営するという歴史と伝統を築き上げた。関東支部のこれまでの歩みと活動の詳細については、徳増征二(日菌報47:65-66, 2006)や矢口行雄幹事長による本日のシンポジウム講演に譲りたいが、現在の支部の特徴はウェブサイトに掲載されている基本方針に端的に表れている。すなわち、

基本方針1 フレキシビリティと決定の早さ・・・関東支部でもっとも得意とするところはフレキシブルで、決定の早さである。それぞれの幹事が自らの責任で小回りの良さを発揮して会員・参加者にとって魅力のあるイベントを企画してきた。基本的な企画は、年次大会、こどものためのサマースクール、菌類観察会、菌学ワークショップ、年末のシンポジウムとウェブサイト運営の6本立てである。

基本方針2 大学と公的機関、企業研究者そしてアマチュアの3本柱・・・関東支部を支えるのは、大学や国公立の組織の教育・研究者、企業研究者・R&D担当者そしてアマチュア会員の3つの柱である。そこでこの3つのグループの会員に対してサービスできるように努めてきた。

基本方針3 新機軸・新しい企画・・・常に新しいことを考え魅力ある企画を立案してきた。最近の例は以下の通りである。

  • その1 こどものためのサマースクール: 菌学の未来を支えるには将来を見越した教育が重要である。そこで小学生にも菌類に興味を持ってもらうべく、子供たちを対象としたサマースクールを開催している。
  • その2 「菌学ラテン語と命名法」のCD-ROM化: 勝本謙著「菌学ラテン語と命名法」は2004年好評の内に完売したが、この書籍をCD-ROMにしてラテン語・英語・日本語の検索可能な電子辞書化を目指し、勝本先生と担当幹事や多くの協力者のおかげで完成した。
  • その3 「日本産菌類の目録」: 同じく勝本先生が長年にわたって集録してきた「日本産菌類の目録」は菌学研究者垂涎のデータベースである。そこでこの目録の出版を目指ざすべく、編集を安藤前会長に依頼し、現在進行中である。


 この20年間あるいは30年間の先人の足跡を踏まえて、それでは関東支部は今後どのような道をたどったらよいのか、まったくの私見を述べてみたいが、幹事の方々と相談したわけではないので、私の夢物語と取っていただいてもかまわない。

 関東支部は、第1に支部として親学会を下支えするという使命がある。しかし、その生い立ちゆえに必ずしも親学会の金太郎飴である必要はない。「下支え」という使命から、逆に親学会にできないこと、時間がかかることを補完的に行うという役割があると信ずる。

第2に会員あっての学会である。現在そして将来の会員のために永続的な活動ができなければ意味がない。幹事が自らの責任で様々な催しに際しては、将来性を見越して、会員にとって魅了ある企画を立案運営していく必要がある。そのためには他学会の例(アメリカ菌学会のオークションはその好例)も大いに参考にしたい。

第3に企画幹事の献身的貢献をあげたい。「こういうことをやってみたい」という幹事が手弁当で自らの意志で動くことを継続する。このポリシーなしには関東支部はあり得ないのでひょっとしたら最も重要かもしれない。

第4に永続性という観点から、年齢、知識、分野、経験の異なる会員のご援助を求めたい。例えば教育的な企画においてはその分野での専門家(例えば小中学校の先生方)の会員の方々に、菌学の歴史探訪の企画なら経験豊富な方々(例えば定年退職して古い文献調査などをなさっている先生方)に意見を伺いたい。

第5に連続性という観点から外部との接触や関係を積極的に求めたい。関東支部という小さな組織の内部で自己満足するのではなく、生物としての菌類のように四方八方に菌糸を伸張し、外界と積極的に関わる組織でありたい。世の中に科学・技術・社会(STS)という言葉があるように学会の一般社会との積極的な関わり合いは、偽科学を駆逐し一般への社会啓発活動として重要である。情報発信にはネット技術の積極的利用が考えられる。

以上を踏まえて、私の夢物語(妄想)の企画を羅列する。

  • 最新技術の動向:画像処理技術、DNAチップ、次世代シークエンシング、メタゲノム、OMICSなど網羅的解析
  • 食品と菌類:伝統的食品、食の安心と安全性、健康食品と科学的データ
  • 環境と菌類:環境問題、エネルギーと菌類、環境修復と菌類
  • バイオテクノロジーと菌類:社会啓発、技術講座、ワークショップ
  • 温故知新:古文書解読ならぬ菌学歴史書の解説や紹介
  • 他に学ぶ:英国菌学会のMycologists、アメリカの産業微生物学会(SIM)
  • 他学会との交流:放線菌学会、昆虫学会、植物病理学会などなど
  • 海外との連携:台湾、韓国、欧米
  • 異分野との交流:もやしもん
  • 教育:初等教育(古い教科書に学ぶ)、中等教育
  • 教育:高等教育(大学に菌学の講座がないのなら、外部組織と連携してそれを担うような企画)、研究教育(「研究の失敗に学ぶ」のような企画、菌学英語、英語のプレゼン)
  • 種々の役立つ技術講座:同定講座もしくは同定支援、統計解析 l 社会啓発:一般社会への啓発と情報発信(きのこ中毒や毒キノコの見分け方の嘘、微生物と安全性、衛生)
  • 関東支部の機関誌発行:印刷ではなく会員がダウンロードできる形のPDF小冊子 もちろんこんなに盛りだくさんの企画が可能とは思わないし、やりたいという人がいなければ意味がないが今後のヒントにはなるかもしれない。


 最後に、関東支部は幹事の献身的なボランティア精神で運営されている。会員の皆様方には幹事へのご声援と、もし自ら企画運営に携わりたいという方がおられたら歓迎したい。