第24回 菌学シンポジウム報告
「菌類・動物間の多様な共生関係―生態系から遺伝子まで―」

日時: 2009年12月12日(土) 13:30~17:30   
場所: 東京農業大学 世田谷キャンパス グリーンアカデミーホール

プログラム(敬称略)
13:30 - 13:40 日本菌学会関東支部会長 挨拶
 小川 吉夫 (日本大学 薬学部)
13:40 - 14:20 モグラと真菌―キノコの生える巣、生えない巣  横畑 泰志 (富山大学)
14:20 - 15:00 DNAから分かるヤクシマザルのキノコ食の実態  佐藤 博俊 (森林総合研究所 関西支所)
15:00 - 15:40
嫌気性ツボカビ類―動物の食性に関与する菌類  松井 宏樹 (三重大学)
15:40 - 16:10
---コーヒーブレイク---  
16:10 - 16:50 昆虫類における内部共生微生物の機能、起源、進化  深津 武馬 (産業技術総合研究所)
16:50 - 17:30 シロアリの卵に擬態する菌核菌:擬態の仕組みと進化プロセス  松浦 健二 (岡山大学)
17:40 - 19:40 懇親会  

写真についての簡単な説明を入力2009年12月12日、東京農業大学世田谷キャンパス・グリーンアカデミーホールにて、第24回日本菌学会関東支部シンポジウム「菌類・動物間の多様な共生関係―生態系から遺伝子まで―」が開催されました。
 生物の多様性を生みだす機構として、異種生物間の共生関係が重要な役割を果たすことには疑う余地はありません。最近では、特に植物と菌類の共生関係については、菌根の研究が盛んになるにつれて様々なことが明らかにされてきています。今までのように、生物多様性を個別の生物個体による断片的な見方ではなく,正しく包括的に理解するために,このような目にみえない地下の共生関係の研究が盛んになってきたことは、特筆すべきです。

 しかし、植物・菌類間の共生関係に比べると、動物・菌類間の共生関係については、不思議なことにこれまであまり注目されてきませんでした。菌類の本当の多様性がいまだにわかっていない現状ではありますが、今現時点で地球上で多様性が高いとされているのは昆虫を含む動物です。当然そのような多様な動物と共生する菌類にも多様なものがあるはずです。

 今回のシンポジウムでは、このような動物・菌類間の共生関係に焦点を当てて、様々な事例を紹介しました。

 富山大学の横畑泰志氏はモグラの巣から生えてくるキノコについて、実際のモグラの巣も持参いただき、紹介されました。共生菌の研究が進むことにより、モグラ学の発展にも寄与したというご指摘は菌学研究者のモチベーションを高めたのではないかと思います。

 森林総合研究所関西支所の佐藤博俊氏には、ニホンザルが食用キノコと毒キノコを見分けているらしい、という興味深い事例を紹介していただきました。この能力が本能なのか、学習によるものなのか、はたまた親から伝わる文化のようなものなのか、興味はつきません。

 三重大学の松井宏樹氏からは、草食動物の消化管に共生する嫌気性菌類の紹介をいただきました。我々が予想していた以上の嫌気性菌類の多様性と草食動物に与える影響については、今後の菌類多様性の研究を進めていくうえで注目する必要があるでしょう。

 産業技術総合研究所の深津武馬氏には、様々な昆虫の内部共生微生物を紹介していただきました。特に研究が進んでいる細菌と昆虫の共生システムを見ると、生態的にもゲノムレベルでも複数の生物が1つの複合体を形成しています。これは菌類と他の生物の共生システムについてもあてはまるかもしれません。

 岡山大学の松浦健二氏は菌類による擬態、という非常に珍しい例を紹介されました。菌類がシロアリの卵に擬態し、形態的に類似するだけでなく、卵認識フェロモンまでも生成する巧妙なシステムです。このような卵擬態は少なくとも2回独立に進化したということで、地球上にはまだまだ我々の知らない菌類による擬態があるかもしれません。

 シンポジウムでは各講演者に対して多くの質問が投げかけられ、活発な議論がおこなわれました。おかげで時間が足りなくなるほどでしたが、引き続き講師も交えて行われた懇親会で、さらなるディスカッションがなされました。講師のみなさま、および参加者の皆様に感謝申し上げます。