第38回 ワークショップ報告 「コウヤクタケの分類

日時: 2025年6月20日(金)~6月22日(日)
場所:筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所(長野県上田市)
講師:前川二太郎先生(日本菌学会)

 本会のワークショップでは、菌類の進化の系列の順番に沿って、観察対象を選んできました。ここ数年、陸上進出したのち陸上環境により適応を果たした二核菌亜界をテーマとし、昨年度のハラタケ目に続いて今回も担子菌門を取り上げ、前川二太郎先生を講師としてお招きして、特にコウヤクタケ類を対象としました。森の中に入ると、そこかしこにたくさんのコウヤクタケ類が見つかります。どんなにコンディションが悪いときにもコウヤクタケと硬質菌は必ず見つかるのではないか?というほど、よく目にする菌類です。しかし、キノコの観察会などでは、のっぺりとしていて肉眼的特徴が乏しく、検鏡しないと取り付く島がないような感じがして、つい敬遠されがちです。ところが、顕微鏡観察をしてみると、担子胞子、担子器や、シスチジアの形状は実に変化に富んでおり、表情豊かな味わい深い菌だということが実感できます。今回、中学生から年輩の方まで、熱心な皆さんが集まってくださり、お手伝いの学生さんや実験所ボランティアの方を含めて参加者は合計22名と盛況でした。

 ワークショップ初日の20日金曜日は15時から受付を開始し、ガイダンスを受けて頂いた後、皆で夕食をとりました。食後に前川先生よりコウヤクタケ類についての概説のレクチャーをして頂きました。コウヤクタケ類とは、基質上に膏薬状の子実体を作る担子菌門の菌類の総称で、特定の分類階層や分類群ではないということ、また、生態的には主に倒木など木質の基質の腐生菌だけれども、藻類や動物と共生するもの、植物に寄生するものもいることをスライドでわかりやすく解説してくださりました。また、特徴的なコウヤクタケ類として、マングローブで潮の満ち引きにより海水に沈むようなハビタットに生活するHaloareurodiscusや、ビロウヤシに生える矢じりのような面白い形をした胞子を作るAleurodiscus、アセビの生木に特異的に発生するTublulicium、樹木と共生して菌根を作るラシャタケ属、シロアリと偏利共生するAtheliaなど、面白い形態や生態を示すコウヤクタケのご紹介もあり、コウヤクタケ類への興味をかきたてられました。

 翌日は朝食のあと、クマに注意しながら実験所構内のアカマツ林に出掛けて採集を行いました。皆さん、普段、傘と柄のあるようなキノコには目が行きますが、なかなかコウヤクタケを探そうという目で野外を歩きませんよね?林に入って倒木や枯れ枝を裏返してみると、実にたくさんの木の裏に何等かのコウヤクタケが発生していることを改めて痛感します。普段ならスルーしてしまうこれらのコウヤクタケを、丹念に採集していきました。肉眼でも種名がわかりやすい、アカマツの枯れ枝に発生するキシワタケ(Pseudomerulius aureus)など幾つかの種については、現場で前川先生から特徴を解説して頂きましたが、多くのコウヤクタケ類は、肉眼だけでは詳しくはわからないため、採集して持ち帰り午後からの顕微鏡観察材料としました。

 午後は、持ち帰ったコウヤクタケ類を顕微鏡で観察して同定を試みました。前川先生が、コウヤクタケ類の分類に用いる多様な形質について、たくさんの写真や図版をコンパクトにまとめたテキストを作って下さりました。子実層は白色以外にも、赤や青や黄色など意外に色とりどりで、子実層托は平滑なものもあれば、歯牙状のものや針状のもの、管孔状のものもあり、担子器周縁の様子なども含め、マクロな観察も大事です。続いて、担子器果を構成している菌糸がどういうタイプのものか、担子器や担子胞子、嚢状体(シスチジア:ラゲノシスチジア、レプトシスチジア、メチュロイド等)や糸状体の形がどうかといった顕微鏡による特徴、隔壁孔のような微細構造、アナモルフに関する総覧図とともに、これらに基づくコウヤクタケ類の検索表もテキストに入れて下さり、これらを参考にして同定に挑戦しました。メルツァー液、KOHとフロキシンなどを使ってプレパラートを作って観察してみると、担子器や、嚢状体などが意外に大きなサイズなので楽しく観察できる材料が多いことも新鮮でした。夕方、食事の後は、実習室の一隅に集まって、皆さんお持ちより下さったお酒やお土産をおいしくいただき、多いに懇親を深めました。岡根会長もお酒をもって駆けつけて下さり、深夜遅くまで、ディープな菌類談義で盛り上がりました。

 3日目の午前中は、引き続き、顕微鏡観察を続けました。樹木医もされている会員の岩谷さん、山内さんは、樹木に発生するモンパキン(カイガラムシ共生菌)や植物病原菌との関係もあって、コウヤクタケ類に多いに関心を深められた様子でした。中学生の永田さんは、コウヤクタケ類が形成するBurgoa属のアナモルフを発見されお手柄でした!顕微鏡観察を終えたのち、前川先生に、今回、観察されたコウヤクタケ類の総括の講義をして頂きました。永田さんが採集したLiomyces sambucinaはレプトシスチジアを持つことが特徴;姉崎さん、塩沢さんが採集したBotryobasidium subcoronatum, B. pruinatumほか(この属は多くの方々が採集)は実質の菌糸が直角状に分枝、胞子形状などからわりと種までわかるグループ;柴田さんが採集したHaplotrichumは、Botryobasidiumのアナモルフ;杉本さんが採集されたTubliclinis calothrixはリオシスチジアがアミロイドで大きく、面白い形をしていて印象的;永田さんの採集したHyphoderma sp.は胞子が大型で見やすく、シスチジアの形状で見分けられる;堀内さんが採集したHymenochaete sp.(タバコウロコタケ属)は全体に褐色で、顕微鏡的に褐色の剛毛体を持つことが特徴;皆さんが採集したHyphodontia属はすごく大きな属で100種以上を含み、近年、6つ以上の属に分割されているが、今回採集された. argutaは結晶を被るラゲノシスチジアを有し、色は白が多く従来サルノコシカケ目だったが、現在タバコウロコタケ目に移された;杉本さんが採集したXenasma rimicolaは、ロウ質で目立たないが担子器を側生する点で特徴的で日本産2種で胞子のサイズで同定できる;永田さんが採集したBurgoa sp.Sistotrema属のアナモルフで後者は50種以上を含む大きな属;アカマツに出ていたキシワタケは松の材に発生する褐色腐朽菌でイグチ目のイドタケ科に属す;このほか、AleurodiscusScytinostromaByssomeruliusXylodonPeniophoraなどの属も観察されました。

 前川先生、今回は大変丁寧なご指導を有難うございました。終始笑顔で楽しく熱心にコウヤクタケに接する先生の姿勢に多いに学ばせて頂きました!お弟子さんの大前幹事さんも駆けつけて下さり、コウヤクタケ類のご指導ご協力ありがとうございました!。前川先生は、日本産のコウヤクタケとして約400種ほどを把握されているそうで、コウヤクタケ類の図鑑を作成する構想を進められているとのことで大変楽しみです。

 今後も、様々な菌類のワークショップを開催していきたいと思いますので、取り上げて欲しい菌類の分類群、生態群のご要望などがありましたら幹事までお知らせください。

担当幹事 出川 洋介・柴田 めいこ

H26WS_011.前川先生のレクチャー

H26WS_022.アカマツ林内での採集風景

H26WS_033.前川先生のお弟子さん、大前さんとの師弟対面!

H26WS_044.前川先生の顕微鏡観察解説に熱心に聞き入る皆さん

H26WS_045.岡根会長ご挨拶

H26WS_046.二日酔いをものともせずに朝ごはん

H26WS_047.今回、観察されたコウヤクタケ類の総括の講義

H26WS_048.集合写真

H26WS_049.毎回恒例!WS成果を身体で表現!コウヤクタケになっての集合写真(前川先生は担子器果を、皆さんは各々、多様なシスチジアや担子器を体現されています!)