菌学関係の書評

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更新日 2018-03-28 | 作成日 2007-09-15

胞子

きのこ博物館

根田 仁 著 B6版 235頁 八坂書房 2003年発行 定価2000円 ISBN4-89694-819-X


  著者のあとがきにあるように,きのこは何時の時代にも不思議な生きもの,美味しい食べ物・難病に効く妙薬とされてきた.この不思議な生きものの正体を解くために,いろいろな人たちが,いろいろな方向から,いろいろな方法を用いて努力しているが,容姿に似合わず手強い相手で,満足するまでにはまだまだ程遠い.かく言う書評子も,50年間を越す程にきのこと付き合ってきたが,未だに腑に落ちないことが沢山残っている.とくに個々のきのこについてその歴史的背景や故事来歴など,詳しく知りたいことがある.こんな時,この本は主要なきのこについて解りやすく,しかも手軽に纒めてあって大変参考になる.

  内容は,3つの項目に別れている.第1の項は「遠くて近いきのこたち」と題して,仙人の妙薬?ブクリョウの話,光るきのこの話,山姥の髪の毛の正体は?など11の興味深い話題について解説している.ところどころにウィツトに富む文章もあって,なかなか面白い.第2の項には「きのこの味わい今昔」として,庶民の知恵が広めたシイタケつくり,ナメコとエノキタケの間柄,正体不明のクリタケの話など15種の食用きのこについてその故事来歴を説いている.滅多に見る事のできない「本朝食鑑」(1697)や「和漢三才図会」(1712)などの古文書を随所に引用し,それを平易な文に直して書いているあたりは,著者の並々ならぬ苦労が伺われる.また,分類学が専門の著者だけに,分類学的見地からの考察も織り込まれていて読み応えがある.第3は「きのこをめぐる文化史」で,ツュンペリーと日本のきのこ,きのこをめぐる英語の話,ピーターラビットときのこ,古代ギリシャ・ローマのきのこなど9の話題を取り上げている.この項は,世界的な立場からきのこにまつわる故事来歴を詳しく説明してあり,外国のめずらしい風俗・習慣を知ることができる.またこの項の末尾には,狂言のきのこやお江戸のきのこ料理の話もあって,日本のきのこ文化にも触れている.

  書評子は,高校生の頃からきのこに興味をもち,荒川の土手の草叢できのこを探していたきのこ少年をよく知っている.その著者が,ここに「きのこ博物館」を書き上げた.博物館といえる程の大著ではないが,長い間ひたむきにきのこを見てきた者でなければ気が付かない分野を丁寧に解説したところにこの本の価値がある.是非とも一読をお薦めしたい.

(評者 古川 久彦)

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