菌学関係の書評

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更新日 2018-03-28 | 作成日 2007-09-15

胞子

Hypocreales of the Southeastern United States: An Identification Guide

G. J. Samuels, A. Y. Rossman, P. Chaverri, B. E. Overton and K. Poldmaa著,206年,145p, Cen- traalbureau voor Schimmelculutures. ISBN: 978―90―70351―59―5


  書評というのはなんとなくおこがましく感じるが,若干の解説に,本書を読んでの個人的な感想を述べさせてもらって,それを参考にしてもらえればと思う.

  まずは,本書の概説をしておく.本書は,The CBS Biodiversityシリーズの第4号として出されたものである.本書発行の機会となったのは,2004年の7月に行われたアメリカ菌学会(the Mycologial Society of America) の大会で開かれたワークショップ(“the Hypocreales of the Great Smoky Mountains National Park(GSMNP)”) である.

  余談であるが,このGSMNPは,ノースカロライナ州,サウスカロライナ州,テネシー州,ジョージア州という4つの州にまたがる広大な自然公園である.もちろん自分は,行ったことがないが,生物多様性保全の観点から保護されている魅力的なサイトだと感じた.

  さて,本書について,そのGSMNPの中で,採集されることが期待されるHypocrealesの菌を網羅しており,総数で101種が記載してある.タイトルからいくと,アメリカ合衆国の東南部に限ることになるが,日本に生息している共通種も多いことから,日本のこのグループに興味がある人だとそのまま参考にすることが出来る.本書は,同定のためのガイドとなるよう,基質上での全体的な写真と,子座の拡大写真,組織細胞,および子のう胞子,培養が可能なものについては,Anamorphのphialideやconidiaの写真までもが載っている.もちろんすべての種において,前述の写真が全部そろっている訳ではないし,写真には若干不出来なものも含まれているが,総じて質の高い写真が多く,同定に参考になる情報を出来るだけ与えようとするスタンスが感じられる.ただし,逆に形態を描画した図はなく,分類学を専門としている人からみると物足りなさがあるかもしれない.まあ,そういう方は,それぞれの種の記載論文や,モノグラフが参考文献として紹介してあるので,そちらを当たってくれということだろう.個人的には,名前だけしか知らなかった菌も記載されていて,その写真を見ることが出来て,一種嬉しい気分になった.本目(Hypocreales)の菌をこれだけまとめて,写真で見られる本というのは,他にはないと思われるので,本書は非常に貴重で参考になる本だと思う.

  また,属以下の種については,種小名のアルファベット順に載っており,その割り切りからもわかりやすさを優先させているスタンスが感じられる.ひとつの種については,1ページか2ページをきれいに使ってあり,同ページに複数の種の説明が載っていることはない.その分スペースは贅沢に使われているが,これもわかりやすさを優先させたためだろう.そのため,A4版で140ページを超えることから,野外に持っていくガイドブックとしては使いにくい.試料を野外でとって,研究室に持ち帰り観察を行うときに座右の書として使うのに最適と考えられる.冊子式ではなく,リングタイプなので,興味のある種のページを開いて,観察することが出来る.

  つまり,この本は,Hypocrealesの菌が相当数載っている同定ガイドブックとしては,使いやすさわかりやすさを追求してあり,大変ためになる本だといえる.個人的には,きのこ栽培上の害菌として,Hypocrea 属と付き合っている関係上,将来的にきのこ栽培者およびきのこ栽培に関係する研究者の人たちに,同定のための情報を提供する際,このスタンスを参考としたい.かなり個人的な話をしたついでに,もうひとつこの本を読んで感じたことを一つ述べておく.著者の1人Dr. Barrie E. Overton氏とは,2000年のアメリカ菌学会の大会がアメリカ合衆国のバーモントであったときに会い,その後2002年にはむこうが日本に来て,九州の山を一緒に調査に行ったりした.その当時,彼はまだドクターをとっていなかったので名刺を作ることが出来ない,といっていた.アメリカはなるほど,厳しいところだなと思ったことがある.その彼も,無事ドクターを取得し,このような本の著者の1人として,名を連ねることになったというのは,時の流れを感じるとともに,自分への発奮材料にしなければ,というようなことも考えてしまった.

  最後に,今回,書評を書くにあたって,いろいろ考えながら本書を観察してみたが,そのおかげで,細かい点にいろいろ考慮されていることに気が付くことが出来た点,ニュースレター編集委員の方に感謝する旨を添えておく.

(評者 宮崎 和弘

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