冬虫夏草

菌学関係の書評

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更新日 2018-03-28 | 作成日 2007-09-15

胞子

冬虫夏草ハンドブック

盛口 満 著,文一総合出版,2009年,80pp,1,470円,ISBN: 978-4-8299-0143-4


 「冬虫夏草」という言葉を聞いて,瞬時に何なのかわかる方は,世間一般にはそういないだろう.私自身も会社などで,「冬虫夏草の研究をしていたって聞いたけど,それって何?」と尋ねられ,言葉で説明してもイマイチわかってもらえないときがある.そんな時,「これだよ」と説明無しに広げて見せるだけで一目瞭然にわかってもらえる本がこのハンドブックである.

  今までに発刊されている冬虫夏草が掲載されたハンドブック的なものといえば,「カラー版冬虫夏草図鑑 (清水大典著 家の光協会1997)」や「山渓フィールドブックス (10) きのこ (本郷次雄ほか著 山と渓谷社 1994)」であった.前者は冬虫夏草のみ記載されたものであるが,写真ではなく精密画である.また,発生状況が文章でしか書いていないためわかりにくい.そして,大きく厚く重い.後者は発生状況が良くわかるよう地面の断面図になった写真を掲載してあるが,きのこ全般の図鑑であるため,冬虫夏草はほんの一握りの種数しか掲載されていない.また,野外で持ち歩くにはやや厚く片手では開きにくい.本書はその両者の欠点を補ったものと言える.

  写真の体裁は「山渓フィールドブックス (10) きのこ」と同じ,実際地面や倒木の中から発生している子実体の前面の土壌などを削り取り,どのような環境で昆虫から発生しているか一目でわかるようになっている.本の大きさは少し大判のメモ帳くらいであり,野外での使用に煩わしさを全く感じさせないサイズだ.また非常に薄いので,ページを開いて片手で持って見るのに全く無理がない.その分,掲載されている種数は「カラー版冬虫夏草図鑑」にはだいぶと劣ってしまうが,「山渓フィールドブックス (10) きのこ」よりは多い.本書は入門書として執筆されたと思われるが,やたらと珍奇な種の掲載に走ることなく,冬虫夏草初心者がフィールドへ採取に赴いた際,出会う可能性の高いものが網羅されている.この辺りの匙加減は,数多く冬虫夏草の採取に出ている著者の盛口満氏と安田守氏のセンスによるものだろう.

  盛口氏は「ゲッチョ先生」のあだ名で,冬虫夏草のみならず数多くの生物や自然の楽しみ方に関して,専門的な内容に傾きすぎることのない誰にでも非常にわかりやすく読んで楽しい書籍を多数執筆している.本書においても,ただの写真図鑑に終わることなく,随所にイラストや採取時のエピソードに絡めたコラム欄を設けるなどして,とっつきやすく楽しめる内容に仕上げてある.安田氏による良質な写真との相乗効果は絶妙だ.「冬虫夏草」食わず嫌いである方も,気温が寒くなる前に本書片手にフィールドへ採取に出てみては如何ですか?きっと楽しさがわかるはずです.

(評者 佐々木 史)

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