菌類 多様性

菌学関係の書評

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更新日 2018-03-28 | 作成日 2007-09-15

胞子

菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統 バイオディバーシティ・シリーズ4

岩槻 邦男・馬渡 峻輔 監修,杉山 純多 編集,裳華房, 2005年.492pp,6,800円.ISBN: 4785358270


  菌類の分類体系のあまりにも急速な変化に取り残されそうな人はいないだろうか.Ainsworth and Bisby's Dictionary of the Fungiが版を重ねるたびに大きく菌類の分類体系を変えざるを得なかったことを考えれば,菌類の分類体系が流動的な状況なのは今に始まったことではないという人もいるだろう.しかし,近年の分子データを用いた体系の再構築はあまりにも急激である.菌類の分類体系は今までの教科書で書かれていたものとは大きく異なるものになってきており,最新の菌類の分類体系を全て把握するのは難しい状態にある.自分の専門分類群の体系であれば何とかついていけるかもしれないが,他の分類群となるとさすがに難しい.しかも不幸なことに最近の菌類の体系を日本語で網羅的に解説している書籍はほとんど見当たらない.これは入門者が菌類を学ぶ際の高い敷居となっているように思える.

  このような状況下で菌類の最新の体系を日本語で解説した待望の書,「菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統」が出版された.本書は裳華房が出版している人気のバイオディバーシティ・シリーズの第4巻である.バイオディバーシティ・シリーズ中,現時点で最もページ数の多い号であることからも,菌類,細菌,ウイルスの分類と多様性がいかに広大で奥深いものであるかを窺い知ることができる.本書は5部構成となっており,第1部「微生物の世界」,第2部「菌類の多様性と系統」,第3部「菌類群ごとの特徴」,第4部「細菌の多様性と系統」,第5部「ウイルスの多様性と系統」からなる.第1部では菌類を含む微生物全般の概説が中心となっているが,生物界における菌類の系統的位置についての解説も含まれている.第2部では菌類の系統分類と多様性研究について,歴史的変遷から最近の知見まで解説されている.ここでは,形態,生理,生態など様々な側面から菌類の多様性と系統について説明されている.第3部は各論的内容が中心であり,菌類の各分類群について形態,生態的特徴について概説されている.第4部と第5部は菌類に関する話題はないが,細菌,ウイルスの分類と多様性に関するエッセンスがコラムも交えて概説されている.

  本書は細菌やウイルスの分類体系の解説と抱き合わせになっているため,まとまりを欠くように思われる.ただし,それぞれ単独の書にしてもおかしくない内容を無理やり一冊にまとめているのだから無理もないかもしれない.菌類の分類,多様性研究とのアプローチの違いを比較するのに参考になる.また,本書は多様性と系統を中心に解説したものであるため,ある分類群の生態についてより集中的に知りたい人には少し物足りないかもしれない.しかし,講談社サイエンティフィックの菌類図鑑(上)(下)(宇田川俊一,他,1978)以降,網羅的に菌類の分類,生態を取り扱った日本語の書籍が少ない現在,本書の出版の意義は,学生や入門者にとっては大きい.

  基本的に菌類の分類,系統解析は現在進行形であり,リアルタイムで新たな知見が提示され,体系は絶えず更新されている.そのため,本書編纂に際しても執筆者,編集者の方々は苦労されたのではないかと思う.また,体系の一部は未だ混乱しているため,どこまで本書に含めるかについても,相当悩まれたのではないだろうか.本書はそうした苦労の賜物であり,日本語で読める菌類の多様性と系統に関する書籍としては,最新の知見を多く含んだ,非常に幅広い内容を網羅している良書である.

(評者 升屋 勇人)

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